話しかけてみようとは思うものの
いざなんと話しかけたらよいのかわからない。
そもそもほかの囚人も看守と喋っていないところを見ると
看守と仲良く喋ろう、ということ自体がそもそも無茶なのではないか。
なのでチャンスは伺いつつ、無理にしゃべりかけるのはやめることとした。
業務的なものではあるが、看守への挨拶、返事、はしっかり行い、
制服のエリが折れてしまっているときなどは小さな声で教えてあげたりした。
そうして無理に仲良くしようとはせず、数日が過ぎた。
ある日、看守がいつものように立ち番をしていると
看守の上司がすぐそこで立ち番をしている看守を怒鳴り声をあげて呼びつけた。
駆け足で上司の声の元へ看守は向かっていった。
何時間かたったろうか、
立ち番の看守が戻ってきた。
明らかに落ち込んでいる、何かやらかしたのかもしれない。
その翌日も
同じ声の怒鳴り声に看守が呼び出されるのを目撃した。
そしてその翌日も
その翌日も
どうやら上司に目をつけられてしまったようだ、ということがわかった。
ある日、呼び出されて看守が戻ってくるタイミングで
ちょうど檻の格子のそばにいたので
「看守も大変ですね。」
と、あなたは一言だけ小さな声で看守に話しかけた。
「囚人に同情されてちゃお終いさ、、」
と苦笑いしながら、返してくれた。
その日の会話はその一言のやりとりのみだった。
しかし、その日以降、
看守が少しあなたに意識を向けてくれることが増えた。
牢屋前を通り過ぎる際、あなたにむけて変顔を披露してくれることもあった。
そうして少しずつ、少しずつ看守との仲が良くなっていく中
ある日、看守がこんなことを教えてくれた。